4.4 順序集合

反射的,反対称的かつ推移的である関係を半順序(partial order)とよぶ. 例題4.1より実数上の関係$ \leqq$はこの3条件をみたすから半順序である. $ R$が集合$ P$上の半順序のとき,$ P$$ R$を組にして考えた $ (P,R)\strut$半順序集合(partially ordered set)とよぶ. 考えている半順序が明らかなときは,単に$ P$を半順序集合とよぶこともある.

4.26   $ {\cal P}\strut$を集合族とする. $ x,y\in {\cal P}\strut$に対し, $ x \leq y \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut x \subseteq y\strut$とすると 関係 $ x\leq y\strut$は半順序であり, $ ({\cal P},\leq )\strut$は半順序集合である.

$ (P,\preceq)\strut$を半順序集合とする.$ P$の元$ x,y\strut$ $ x\preceq y\strut$または $ y\preceq
x\strut$ が成り立つとき比較可能 であるという.$ P$の任意の元$ x,y\strut$が比較可能であるとき, $ (P,\preceq)\strut$全順序集合 (totally ordered set)あるいは線形順序集合(linearly ordered set)とよばれる.$ \leqq$を実数上の順序とすると, $ (\mathbb{R}, \leqq)\strut$は全順序集合である.例4.26は全順序集合ではない.

$ (P,\preceq)\strut$を半順序集合とする. $ S\subseteq P , x\in S$に対し,$ x$$ S$の極 小元であるとは, $ \forall y \in S [ y\preceq x  \rightarrow y=x]\strut$ をみたすときをいう.同様に $ \forall y \in S [ y\succeq x  \rightarrow y=x]\strut$ をみた すとき $ x$$ S$の極大元と よばれる.$ P$の任意の空でない部分集合$ S$が極小元をもつとき, $ (P,\preceq)\strut$整礎集合(well-founded set) とよばれる.

定理 4.27  

全順序集合 $ (P,\preceq)\strut$が整礎集合であるための必要十分条件は$ P$の任意の空でな い部分集合$ S$が最小元を もつことである.

証明: 全順序集合 $ (P,\preceq)\strut$が整礎集合であるとする.$ P$の任意の空でない部 分集合$ S$は極小元をもつ. $ S$はただ一つの極小元(すなわち最小元)をもつことを示す.$ x$$ y\strut$$ S$の極小 元とする. $ (P,\preceq)\strut$は全順序集合であるから, $ x\preceq y  \vee y\preceq x\strut$がなりた つ. $ x\preceq y\strut$のときは,$ y\strut$が極小元であることより$ y=x\strut$となる.一方, $ y\preceq
x\strut$の場合も $ x$が極小元であることより$ x=y\strut$となる.よって,$ S$は極小元をただひとつもつ, すなわち$ S$は最小元をもつ. 逆は,定義より明らかである. $ \Box$

整礎である全順序集合を整列集合とよぶ.

4.28  

  1. $ (\mathbb{N}, \leq )\strut$は全順序集合で任意の空でない部分集合$ S$は最小元をもつ から整礎集合(整列集合)である.
  2. $ (\mathbb{Z}, \leq )\strut$は全順序集合であるが, $ S=\mathbb{Z}$に最小元がないから整礎集合ではない.
  3. $ (\mathbb{R}, \leq )\strut$は全順序集合であるが, $ S=\mathbb{R}$に最小元がないから整礎集合ではない.

問題 4.29   $ (x,y),(u,v)\in \mathbb{N}\times\mathbb{N}\strut$に対し, $ (x,y)\prec (u,v) \Leftrightarrow [x < u]
 \vee [x=u  \wedge y < v]\strut$ とする.さらに, $ (x,y)\preceq (u,v) \Leftrightarrow (x,y)=(u,v)  \vee (x,y)\prec
(u,v)\strut$とする. このとき,次の問に答えよ.
  1. $ (\mathbb{N}\times\mathbb{N},\preceq )\strut$は全順序集合であることを示せ.
  2. $ (\mathbb{N}\times\mathbb{N},\preceq )\strut$は整列集合であることを示せ.

定理 4.30  

$ (P,\preceq)\strut$が整礎集合であるための必要十分条件は $ (P,\preceq)\strut$が真の無限下降 列をもたないこと, すなわち $ \{a_n\}\strut$ $ a_1\succeq a_2 \succeq a_3 \succeq \cdots \succeq a_n \succeq \cdots \strut$をみ たすならば, ある番号$ N$が存在して 任意の$ n\geqq N$に対し, $ a_n = a_N\strut$となることである.

証明 $ (P,\preceq)\strut$を整礎集合とする. $ \{a_n\}\strut$ $ a_1\succeq a_2 \succeq a_3 \succeq \cdots \succeq a_n \succeq \cdots \strut$をみ たす点列とする. $ S=\{a_n\vert n \in \mathbb{N}\}\strut$とおくと,これは$ P$の空でない部分集合で$ P$は整礎集合で あるから,極小元$ x\in S$ をもつ.$ S$の定義より,ある番号$ N$があって, $ x=a_N\strut$となる.このとき, $ x=a_N\succeq a_{N+1} \succeq a_{N+2} \succeq \cdots \strut$であるが,$ x$が極小元 であるから定義より $ x=a_N=a_{N+1}=a_{N+2}=\cdots \strut$となる.逆に, $ (P,\preceq)\strut$は無限下降列をもた ないとする. $ S$$ P$の空でない部分集合とする.$ S$が極小元を持たないと仮定する.このとき $ \forall x\in S\exists y \in S [y\prec x]\strut$がなりたつから, $ a_1\succ a_2 \succ a_3 \succ \cdots \succ a_n \succ \cdots \strut$となる真の無限 下降列が存在する ことになるが,これは $ (P,\preceq)\strut$は無限下降列をもたないに反する. $ \Box$

問題 4.31  
  1. $ x,y\in \mathbb{Z}\strut$に対し, $ x \prec y \ \Leftrightarrow\ [x \geq 0
\,\wedge\,[y < 0 \,\vee\,[y \geq 0 \,\wedge\,x < y]]]\strut$とし, $ x \preceq y  \Leftrightarrow x=y  \vee x\prec y$とすると $ (\mathbb{Z},\preceq)\strut$は整礎集合であることを示せ.
  2. 例の半順序集合 $ ({\cal P},\preceq)\strut$ $ {\cal P}={\cal P}(\mathbb{N})\strut$ のときは,整礎集合ではないこと を示せ.

整礎集合 $ (P,\preceq)\strut$に対しては次の帰納法が適用できる.

定理 4.32 (整礎集合上の帰納法)   $ (P,\preceq)\strut$を整礎集合, $ A(x)\strut$$ P$上の述語とする.このとき

$\displaystyle \forall x\in P [\forall y\prec x [A(y)]  \rightarrow A(x)]  \rightarrow \forall x
\in P [A(x)]\strut$

が成り立つ.

証明: 対偶を証明する. $ \exists x \in P [\neg A(x)]\strut$とする.このとき, $ S=\{x\in P \vert \neg A(x)\}\strut$とおくと$ S$は空でないから,$ S$は極小元$ x$をもつ. $ x$$ S$の極小元であるから, $ \forall y \in P [ y\prec x  \rightarrow y\notin\strut
S]\strut$が成り立つ. よって, $ \forall y \in P [ y\prec x  \rightarrow A(y)] \wedge \neg A(x)\strut$をみたす $ x$が存在する ことになる. $ \Box$

4.33  

$ (\mathbb{N}, \leq )\strut$に対し,整礎集合上の帰納法を考えると

$\displaystyle \forall x\in P [\forall y < x [A(y)]  \rightarrow A(x)]  \rightarrow \forall x \in
P [A(x)]\strut$

となるが,これは通常累積帰納法とよばれるものである.

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/