4.3 商集合

4.3.1 商集合

同値類を集めてできる集合

$\displaystyle \{[a]\bigm \vert a\in A\}\strut$

$ A$の($ \sim$による)商集合とよび, $ A/\!\raisebox{-2pt}{$\sim$} \strut$で表す.

例題 4.19   $ \sim_m\strut$を例題4.4で定義した同値関係とする.このとき,

$\displaystyle \mathbb{Z}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim_m$} =\{ [0],[1],[2],\cdots ,[m-1]\}\strut\strut$

であることを示せ.

$ \mathbb{Z}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim_m$} \subseteqq\{ [0],[1],[2],\cdots ,[m-1]\}\strut$を示せば十分である.$ n$$ m$で割った余りを $ n {\mathrm {mod}} m$で表すと, 任意の $ n\in \mathbb{Z}\strut$に対し, $ n\sim_m n {\mathrm {mod}} m\strut$ かつ $ 0\leqq n {\mathrm {mod}} m \leqq m-1$であるから, $ [n]=[n {\mathrm {mod}} m ]\in \{ [0],[1],[2],\cdots ,[m-1]\}\strut$である. 従って, $ \mathbb{Z}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim_m$} \subseteqq\{ [0],[1],[2],\cdots ,[m-1]\}\strut$である. $ \Box$

4.3.2 商集合上の演算・関係

商集合上に演算あるいは関係を定義するとき,代表元を用いて定義するのが一般的である. しかし,代表元を用いて定義する場合注意しなければならないことがある.次の例を考えてみよう.

4.20   $ m>1$とする. $ \mathbb{Z}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim_m$}\strut$上に演算$ \max$ $ \max\{[x],[y]\}\strut:=[\max\{x,y\}\strut]\strut$により定義することを考える.このとき, $ [x]=[0],[y]=[1]\strut$とすると, $ \max\{[0],[1]\}\strut=[1]\strut$となるが, $ [0]=[m]\strut$であるから代表元を$ 0\strut$から$ m$に置き換えると, $ \max\{[0],[1]\}\strut=\max\{[m],[1]\}\strut=[m]=[0]\strut$となる.従って, $ [0]=[1]\strut$となるが, $ 0\sim_m 1\strut$ではないからこれは矛盾である. このように,上の定義は代表元の取り方に依存してしまい, きちんとした定義になっていない.

この例4.20をみてもわかるように,商集合の演算や関係を代表元を用いて定義するときにはそれが代表元の取り方に依存していないことを調べる必要がある.

4.21   $ \mathbb{Z}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim_m$}\strut$上に演算$ +,-,\cdot$を次のように定義することができる.

$\displaystyle [x]+[y]:=[x+y]\strut$

$\displaystyle [x]-[y]:=[x-y]\strut$

$\displaystyle [x]\cdot [y]:=[x\cdot y]\strut$

この場合は, $ [x]=[x']\strut$かつ $ [y]=[y']\strut$とすると, $ x-x'\strut$ $ y-y'\strut$$ m$で割り切れるから, $ x-x'=cm,y-y'=dm\strut$となる整数$ c,d\strut$が存在し, このとき, $ (x+y)-(x'+y')=(x-x')+(y-y')=cm+dm=(c+d)m\strut$となり, $ (x+y)\sim_m (x'+y')\strut$であるので, 定理4.15より $ [x+y]=[x'+y']\strut$が示される.従って $ [x]=[x']\strut$かつ $ [y]=[y']\strut$ならば $ [x+y]=[x'+y']\strut$ であるので,代表元の取り方を変えても問題はおきない.このように, “代表元の取り方によらずにきちんと定義できている”とき, その定義は“well-definedである”と言う.一方例4.20のような定義は代表元の取り方に依存してwell-definedな定義にはなっていないため,定義としては使用できない. 代表元を用いて演算や関係を定義するときは,その定義がwell-definedな定義であることの 確認を忘れてはならない.

問題 4.22   4.21での差の定義 $ [x]-[y]:=[x-y]\strut$及び積の定義 $ [x]\cdot [y]:=[x\cdot y]\strut$ well-definedであることを示せ.

問題 4.23  

$ \sim$を問題4.17で定義した $ \mathbb{N}$上の 同値関係とする. $ \mathbb{N}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim$}\strut$上に演算$ \otimes$ $ [m]\otimes [n]=[mn]\strut$により定義する. この定義は well-definedな定義になるかどうか答えよ.

問題 4.24   $ \sim$を問題4.18で定義した $ \mathbb{N}$上の 同値関係とする. $ \mathbb{N}/\!\raisebox{-2pt}{$\sim$}\strut$上に演算$ \otimes$ $ [m]\otimes [n]=[mn]\strut$により定義する. この定義は well-definedな定義になるかどうか答えよ.

問題 4.25   $ f:A\longrightarrow B\strut$を全射とする. $ a\sim b \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut f(a)=f(b)\strut$とすると,例4.3 より,$ \sim$は同値関係である.このとき $ f^{\ast}:A/\!\raisebox{-2pt}{$\sim$} \longrightarrow B\strut$を, $ f^{\ast}([a])=f(a)\strut$により定義すると $ f^{\ast}\strut$は全単射であることを示せ.(この定義が well-defined であることも確かめよ.)

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/