4.2 同値関係と同値類

4.2.1 同値関係

反射的,対称的かつ推移的である関係を同値関係(equivalence relation)とよぶ. 等号$ =$はこの3条件をみたすから同値関係である.また,三角形の合同関係も同値関係である. しかし,実数の大小関係$ <$は対称的ではないので同値関係ではない.

例題 4.3   $ f:A\longrightarrow B\strut$とする.このとき, $ x\sim x' \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut f(x)=f(x')\strut$とすると, $ \sim$$ A$上の同値関係であることを示せ.

$ \sim$が同値関係の条件R1,R2,R3をみたすことを示す.

R1: $ f(x)=f(x)\strut$より$ x\sim x$である.

R2: $ x\sim x'\strut$とする.このとき, $ f(x)=f(x')\strut$より, $ f(x')=f(x)\strut$であるから $ x'\sim x\strut$ となる.

R3: $ x\sim x',x'\sim x''\strut$とする.このとき, $ f(x)=f(x') \wedge f(x')=f(x'')\strut$より, $ f(x)=f(x'')\strut$であるから $ x\sim x''\strut$ となる. $ \Box$

例題 4.4   正の整数$ m$に対し,
$ x\sim_m y \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut x-y\strut$$ m$で割り切れる $  \Leftrightarrow \exists k\in \mathbb{Z}[mk = x-y]\strut$
と定義すると,$ \sim_m$ $ \mathbb{Z}$ 上の同値関係であることを示せ.

$ \sim_m$が同値関係の条件R1,R2,R3をみたすことを示す.

R1: $ x\in \mathbb{Z}\strut$を任意の整数とする.このとき,$ x-x=0$より,$ x-x$$ m$で割り切れるから, $ x\sim x$である.

R2: $ x,y\in \mathbb{Z}\strut$ $ x\sim_m y\strut$をみたす任意の整数とする.$ x-y\strut$$ m$で割り切れるから, $ x-y\strut$$ m$で割ったときの商を$ c$とすると, $ x-y=cm\strut$である.このとき, $ y-x=-(x-y)=-cm=(-c)m\strut$であるから, $ y-x\strut$$ m$で割り切れる.よって, $ y\sim_m x\strut$である.

R3: $ x,y,z\in \mathbb{Z}\strut$ $ x\sim_m y\strut$かつ $ y\sim_m z\strut$をみたす任意の整数とする.(2)と同様に, $ x-y\strut$$ m$で割ったときの商を$ c$$ y-z\strut$$ m$で割ったときの商を$ d$とすると, $ x-y=cm, y-z=dm\strut$である. このとき, $ x-z=(x-y)+(y-z)=cm + dm=(c+d)m\strut$より,$ x-z$$ m$で割り切れる.よって,$ x\sim_m z$である.

従って,$ \sim_m$は条件R1,R2,R3をみたすから同値関係である. $ \Box$


問題 4.5   $ x$ $ m( \ne 0)\strut$で割ったときの余りを $ x {\mathrm {mod}} m$で表す.このとき,

$\displaystyle x\sim_5 y  \Leftrightarrow x {\mathrm {mod}} 5=y {\mathrm {mod}} 5\strut$

を示せ.

問題 4.6   $ \mathbb{Q}\strut \times \mathbb{Q}\strut \strut$において,関係$ \sim$

$\displaystyle (p,q)\sim (r,s) \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut p-q=r-s\strut$

により定める.$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.7   $ \mathbb{Q}\strut ^+:=\{q\in \mathbb{Q}\strut \bigm \vert q > 0\}\strut$とする. $ \mathbb{Q}\strut ^+ \times \mathbb{Q}\strut ^+\strut$において,関係$ \sim$

$\displaystyle (p,q)\sim (r,s) \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut ps=qr\strut$

により定める.$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.8   $ \mathbb{Q}\strut \times \mathbb{Q}\strut \strut$において,関係$ \sim$
$ (p,q)\sim (r,s) \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut (p,q)=t(r,s)$ となる$ 0\strut$でない有理数$ t$が存在する
により定める.$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.9   $ {\cal F}\strut$を実数列全体の集合とする. $ {\cal F}\strut$上の関係$ \sim$を次のように定義する.

$ \{a_n\}\strut\sim \{b_n\}\strut\stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut $ある番号$ N$が存在して, $ n\geq N$となる任意の$ n$に対し, $ a_n= b_n\strut$である.

$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.10   $ f:A\xrightarrow[onto]{1-1} A\strut$に対し, $ f^0:=Id_A, f^n:=\overbrace{f\circ f\circ \cdots \circ f}^{n},
f^{-n}:=\overbrace{f^{-1}\circ f^{-1}\circ \cdots \circ f^{-1}}^n\strut$とする.

$\displaystyle a\sim b \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut a=f^k(b)$    for some $\displaystyle k\in \mathbb{Z}\strut$

とすると$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.11   $ M_n(\mathbb{R})\strut$を実数上の$ n$次正方行列全体とする. $ M_n(\mathbb{R})\strut$上の関係$ \sim$を次のように定義する.

$ A\sim B\stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut B=P^{-1}AP\strut$をみたす正則な$ n$次行列$ P$が存在する.

$ \sim$は同値関係であることを示せ.

問題 4.12   $ \mathbb{R}$から $ \mathbb{R}$への関数全体の集合 $ \mathbb{R}\longrightarrow \mathbb{R}$ 上で以下の関係を考える.これらはそれぞれ同値関係であるかどうか調べよ.
  1. $ f,g \in \mathbb{R}\longrightarrow \mathbb{R}\strut$に対し,

    $\displaystyle fRg\stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut \exists r \in \mathbb{R}[ f(r)=g(r)]\strut$

  2. $ f,g \in \mathbb{R}\longrightarrow \mathbb{R}\strut$に対し,

    $\displaystyle fSg\stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut \forall r \in \mathbb{R}[ f(r)=g(r)]\strut$

4.2.2 同値類

$ \sim$$ A$上の同値関係とする.任意の$ a\in A$に対し,$ a$と同値な関係にある$ A$の元全体を $ [a]_{\sim}\strut$で表すことにする.すなわち,

$\displaystyle [a]_{\sim}:=\{b \in A \bigm \vert a\sim b\}\strut$

とおく.文脈から考えている同値関係が明らかなときは,単に$ [a]\strut$で表すことにする. $ [a]\strut$の形の集合を同値類(equivalence class)とよび,$ a$をその同値類の代表元 とよぶ. 代表元の取り方は,一意的には決まらない20$ a\sim b$のとき,$ a$を代表元として表していた同値類$ [a]\strut$を,表現を変えて$ b$を代表元とする同値類$ [b]\strut$で置き換えることを,“代表元の置き換え”あるいは“代表元の取り換え”とよぶ.

4.13  

例題4.4において$ m=5$とする.このとき,$ 0\strut$を代表元とする $ \sim_5\strut$による同値類$ [0]\strut$は 問題4.5より,$ 5$で割り切れる整数全体の集合になる.

問題 4.14   上の例において,同値類$ [3]\strut$はどのような集合か述べよ.

定理 4.15   $ \sim$$ A$上の同値関係とするとき,次のことが成り立つ.
  1. $ \forall a,a' \in A(a\sim a'  \rightarrow [a]=[a'] )\strut$
  2. $ \forall a,a' \in A (a\sim\!\!\!\!\!/ a'  \rightarrow [a]\cap [a']=\varnothing )\strut$
  3. $ \displaystyle \bigcup_{a \in A}[a]=A\strut$

証明1: $ a\sim a'\strut$とする.このとき, $ x \in [a]  \Leftrightarrow a \sim x  \Leftrightarrow a'\sim x  \Leftrightarrow x \in [a']\strut$である. よって, $ [a]=[a']\strut$である.

2: 対偶を示す. $ [a]\cap [a']\ne\varnothing\strut$とすると, $ x \in [a]\cap [a']\strut$である$ x$が存在する.このとき, $ a\sim x  \wedge a'\sim x\strut$であるから $ a\sim a'\strut$となる.

3: 任意の$ a\in A$に対し, $ [a]\subseteq A\strut$であるから,定理3.5より $ \displaystyle \bigcup_{a \in A}[a]\subseteq A\strut$ は明らか. $ A \subseteq \displaystyle \bigcup_{a \in A}[a]\strut$を示す.$ x\in A$とする. $ x \in [x]\strut$であり,また 命題3.4より $ [x]\subseteq\displaystyle \bigcup_{a \in A}[a]\strut$であるから, $ x \in \displaystyle \bigcup_{a \in A}[a]\strut$である. $ \Box$

定理4.15より相異なる$ [a]\strut$を集めると,$ A$を互いに共通部分のない部分集合で分割することになる.

4.16  

$ \mathbb{R}$ 上で定義された微分可能な関数の全体を $ {\cal F}\strut$とする. $ {\cal F}\strut$上の関係$ \sim$

$\displaystyle f\sim g \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut f'=g'\strut$

により定義する(ただし、$ f',g'$はそれぞれ$ f,g\strut$の導関数とする)と,$ \sim$は同値関係であり,$ [f]\strut$$ f'\strut$の原始関数全体である.

問題 4.17   自然数$ m$に対し,集合 $ A(m)\strut$$ m$の素因数の集合とする. $ \mathbb{N}$ 上の関係$ \sim$ $ m\sim n \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut A(m)=A(n)\strut$により定義する. 但し, $ A(1)=\{1\}\strut$とする.次の問に答えよ.
  1. $ \sim$は同値関係であることを示せ.
  2. $ 2$を代表元とする同値類はどのような集合であるか.

問題 4.18   自然数$ m$に対し, $ N(m)\strut$$ m$の約数の個数とする. $ \mathbb{N}$ 上の関係$ \sim$ $ m\sim n \stackrel{\mathrm{def}}{ \Leftrightarrow }\strut N(m)=N(n)\strut$

により定義する.このとき,次の問に答えよ.

  1. $ \sim$は同値関係であることを示せ.
  2. $ 3$を代表元とする同値類はどのような集合であるか.

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/