1.1 集合とは

数,式,関数,ベクトルなど明確に定義された対象を, 一定の条件のもとに集めてひとまとめにしたものを集合(set)とよぶ.

1.1  

  1. すべての自然数 $ 1,2,3,\cdots $の集合1
  2. 実数係数の$ x$についての$ n$次多項式の全体の集合
  3. 実数上の$ 2$項たてベクトルの全体の集合
  4. $ n$次複素正方行列全体の集合
  5. 集合それ自体も考察の対象と考えて,集合の集合を考えることもできる.

次の記号を断わりなく使用する.

$ \mathbb{N}$ :自然数全体の集合
$ \mathbb{Z}$ :整数全体の集合
$ \mathbb{Q}\strut $ :有理数全体の集合
$ \mathbb{R}$:実数全体の集合
$ \mathbb{C}$:複素数全体の集合

集合を構成している個々の対象をその集合の要素(element)とよぶ. $ x$が集合$ A$の元であることを$ x\in A$(あるいは$ A \ni x$)で表し, $ x$が集合$ A$の元でないことを $ x\notin\strut A$(あるいは $ A \parbox{14pt}{$\;\ni\!\!\!\!\!/\;\strut$}x$)で表す. 複数の元 $ a_1,\cdots ,a_n$が集合$ A$の元であることを $ a_1,\cdots ,a_n\in A$で表す.

記号$ \in$は,英語の“is”に相当するギリシア語の動詞の頭文字の $ \varepsilon$が変化したものである.集合の元であることを表すのに $ \varepsilon$を最初に用いたのは,Giuseppe Peano (1858-1932)で,現在用いられている記号$ \in$を最初に使用したのはBertrand Russell (1872-1970)である. [7]

1.2  

$ 2$は自然数であるから $ 2 \in \mathbb{N}\strut$である.$ 1/2\strut$は自然数ではないから $ 1/2 \notin\strut \mathbb{N}$である.$ 1/2\strut$は有理数であるが,$ \pi$は有理数ではないので $ 1/2 \in \mathbb{Q}\strut , \pi \notin\strut \mathbb{Q}\strut \strut$である.また $ 2,1/2,\pi\strut$はすべて実数だから $ 2,1/2,\pi \in \mathbb{R}\strut$である.

一般に集合を考えるときには,個々の対象がその集合の元であるかどうか 明確に区別できなければならない. 例えば,“大きい実数の全体”というのは“大きい”という条件が明確ではないので,これにより集合を定めることはできない. 一方 $ 10^{10}\strut$より大きい実数の全体は集合である.

二つの集合$ A$$ B$に対し,$ A$の元と$ B$の元がすべて一致するとき,すなわち$ A$の元はすべて$ B$の元であり $ B$の元はすべて$ A$の元であるとき,$ A$$ B$は同じ集合($ A=B$)であると考える(外延性の公理).

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/