個の対象 が与えられたとき,それらを元としてもつ 集合を で表す.
自然数を元にもつ集合は と表され,式 を元にもつ集合は と表される.
この方法は元の個数が少ないときに有効である.有限でも元の数が多いときや無限にたくさんの 元をもつ集合に対して
と表すこともあるが,の意味が文脈からはっきりしていることが必要である. 上の例では通常前者はからまでの自然数の集合,後者は正の偶数の集合であることが 予想される.
のみを元として持つ集合 を のシングルトン ,単集合 (singleton)2とよぶ. の中に同じ対象が複数あるとき,外延性の公理より,集合としては元の重複は考えない.例えば と は同じ集合である3.
元についての条件4 が与えられたとき, をみたすもの全体からなる集合 を
注意 ここでは条件 に何の制限も付けていないが, 本当は は何でもよいわけではない.詳しくは[5]などで,ラッセルのパラドックスについて調べてほしい.
条件が' かつ 'の形のときは, かつ を で表すことが多い. 例えば,例題1.4の集合は のように表現する.
条件を表すときに,日本語の“かつ”,“または”,“ならば”,“...でない”を用いると表現が複雑になる場合は, 論理記号 を用いて表現することにする.
“は以下の自然数である” という条件は,“ ”と表現される.
集合 にという名前をつけることを,
次の命題は当たり前のことであるが,重要である.
式 が与えられたとき,の元に対する の値の全体を で表す.
の正の倍数全体の集合は,自然数にをかけてできる数の全体であるから,
のとき,定義より
が成り立つ.従って, 与えられた集合 に対し, を示すには, となる元が存在することを示せば良い. また(*)の の両辺を否定して書き換えると
となるから, 与えられた集合 に対し, を示すには,
(*)の右辺の条件のように,“となる(をみたす)が存在する”と条件が表されるとき 記号 を用いて, のように表現する.
(*)の右辺の条件をこの記号を用いて表現すると
となる.存在記号を用いて条件を表すときは のように, 存在している対象の属する集合が明示される場合が ほとんどである.この場合,板書などでは人により書き方は異なるが
のような表現が使われる. のように が続くときは と省略する.
また(**)の右辺のように, 条件が“すべてのに対して,”の形のときは,記号 を用いて, のように表す.
また, の形の条件は,
のような表現が使われる.の場合と異なり, という使い方はしない. のようにが続くときは と省略する.このような表現法をもとにして,
条件による集合の表現方法は変数が増えても同様である. 例えば,集合の元と集合の元についての式 が与えられたとき, の元との元によって と表されるものの全体を で表す. は と書くことにする.
実数上の項たてベクトル全体の集合 は
ベクトル と の一次結合全体の集合は
のとき,
与えられた集合 に対し, を示すには, となる元とが存在することを示せば良い.
また の左右の式を否定して書き換えると
その1とその2の方法を組み合わせて集合を表現することもある. 例えば,集合が条件 により 1の方法を用いて と表され,さらに集合がそのと式 を用いて2の 方法で と表されている場合,を条件 と式 を用いて直接
のとき,
与えられた集合 に対し, を示すには, かつ をみたす元が存在することを示せば良い.
の の左右の式を否定して書き換えると
与えられた集合 に対し, を示すには,
ただし, をみたすが少ない場合 は前者の形で示す方が容易である.
変数が増えても同様に考える. のとき,
は条件 をみたすの全体を表す集合であるから 記号を別の記号で置き換えて 得られる表現 により定まる集合はと同一の集合である.
と はともにの倍数の 集合を表す.
条件や集合をいくつも同時に扱うとき,条件を表す変数として同じ記号を用いると 混乱する恐れがあるときは,この記号の書き換えを行って表現を変える事が多い9.
TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/