1.4 空集合

与えられた集合$ A$に対し,条件 $ P (x)\equiv x\notin\strut \{x\}\strut$により決まる“対象の集まり” $ \{x \in A \bigm \vert P(x)\}\strut$を考える.$ A$に属するどの元も常に $ x \in \{x\}\strut$ をみたすから, $ P(x)\strut$をみたす$ A$の元は存在しない.従って, $ \{x \in A \bigm \vert P(x)\}\strut$ を集合として考えると,これは1つも元をもたない集合である.我々はこのように元を1つももたないようなものも 集合として扱い,空集合(empty set, null set)とよぶ.

空集合はただひとつである.空集合は通常 $ \varnothing$で表される.

空集合の記号 $ \varnothing$はノルウェーやデンマーク文字のひとつである.空集合を表すのに文献上 $ \varnothing$を最初に使用したのは,フランスの数学者集団Bourbakiである. [7]

定義より, $ \forall x [x \notin\strut \varnothing]$が常に成り立つ. 与えられた集合 $ B:=\{x \in A \bigm \vert P(x)\}\strut$に対して, $ B=\varnothing$ を示すには, $ \forall x\in A [\neg P(x)]\strut$を示せばよい.

定理 1.51  

空集合は任意の集合の部分集合である.すなわち,任意の集合$ A$に対し, $ \varnothing \subseteq A$が成り立つ.

証明: 背理法で示す. $ \varnothing \nsubseteq A$となる集合$ A$が存在したとする. このとき, $ x \in \varnothing  \wedge x \notin\strut A$となる元$ x$ が存在することになるが,これは空集合の定義に反する.よって,任意の集合$ A$に対し, $ \varnothing \subseteq A$が成り立つ. $ \Box$

問題 1.52   任意の集合$ A$に対し, $ A\subseteq \varnothing$ならば $ A=\varnothing$ であることを示せ.

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/