2.3 全射・単射・全単射

2.3.1 全射

$ f:A\longrightarrow B\strut$に対しては,一般に $ f(A)\subseteq B\strut$であるが,特に $ f(A)= B\strut$が成り立つとき,すなわち

$\displaystyle \forall b\in B\exists a \in A [b=f(a)]\qquad (*)\strut$

が成り立つとき,$ f\strut$$ A$から$ B$上へ(onto)の写像, あるいは$ A$から$ B$への全射(surjection)といい, $ f:A\xrightarrow{onto} B\strut$あるいは $ f:A\twoheadrightarrow B\strut$で表す.

問題 2.26  

$\displaystyle f(A)= B  \Leftrightarrow (*)\strut$

を示せ.

例題 2.27   $ f(x)=x^3\strut$ $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への全射であることを示せ.

$ b \in \mathbb{R}\strut$とする. $ a=\sqrt[3]{b}\strut$とおくと, $ f(a)=a^3=(\sqrt[3]{b})^3=b\strut$である. よって,上の条件(*)をみたすから, $ f(x)\strut$は全射である. $ \Box$

例題 2.28   $ f:A\longrightarrow B\strut$ $ g:B\longrightarrow C\strut$とする.このとき, $ f,g\strut$がともに全射ならば, $ g\circ f\strut$も全射であることを示せ.

$ c\in C$とする.このとき,$ g\strut$が全射であるから $ g(b)=c\strut$となる $ b\in B\strut$が存在する. この$ b$に対し,$ f\strut$が全射であることより $ f(a)=b\strut$となる$ a\in A$が存在する.従って, $ c=g(b)=g(f(a))=(g\circ f)(a)\strut$となるから, $ g\circ f\strut$も全射である. $ \Box$

問題 2.29   $ f:A\longrightarrow B\strut$ $ g:B\longrightarrow C\strut$とする.このとき, $ g\circ f\strut$が全射ならば$ g\strut$は全射であることを示せ.また,この逆は一般には成り立たない,反例を考えよ.

問題 2.30   例題 2.28の逆は一般には成り立たない.反例を考えよ.

命題 2.31  

$ A\subseteq\mathbb{R}\strut$, $ f:A\longrightarrow \mathbb{R}\strut$とする.$ f\strut$が全射であるための必要十分条件は, $ x$軸に平行な任意の直線が $ y=f(x)\strut$のグラフと交点を持つことである.

証明: 直線$ y=b\strut$ $ y=f(x)\strut$が交点を持つ

$  \Leftrightarrow \exists a\in A [ (a,b)\strut$$ y=b\strut$ $ y=f(x)\strut$の交点である$ ]\strut$

$  \Leftrightarrow \exists a\in A [ b=f(a)]\strut$ $ \Box$

従って,$ x$軸に平行な任意の直線$ y=b\strut$ $ y=f(x)\strut$が交点を持つことと, $ \forall b \in \mathbb{R}\exists a \in A [b=f(a)]\strut$,すなわち$ f\strut$が全射であること は同値である.

例題 2.32   $ f(x)=x^2(2x-3)\strut$ $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への全射であることを示せ.

$ f'(x)=6x(x-1)\strut$であるから, $ f(x)\strut$の増減表を書くと,

$ x$ $ \cdots$ $ 0\strut$ $ \cdots$ $ 1$ $ \cdots$
$ f'(x)\strut$ $ +$   $ -$   $ +$
$ f(x)\strut$ $ \nearrow\strut$   $ \searrow\strut$   $ \nearrow\strut$

である.また, $ \displaystyle\lim_{x \to -\infty}f(x)=-\infty, \lim_{x \to \infty}f(x)=\infty\strut$ $ f(x)\strut$は連続関数であるから, $ y=f(x)\strut$$ x$軸に平行な任意の直線と交点を持つ.よって,$ f\strut$は全射である. $ \Box$

問題 2.33   $ f_1,f_2,f_3,f_4,f_5\strut$をそれぞれ次の式により定義された $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への写像とする. これらの写像のなかで全射であるのはどれか.

$\displaystyle f_1(x)=x+1,f_2(x)=x^2-2,f_3(x)=x^3+3,f_4(x)=x^3-x^2,f_5(x)=e^x\strut$

問題 2.34   $ A,B\ne \varnothing\strut$とする.直積$ A\times B$の各要素 $ (a,b)\strut$に対して, その第1成分(第2成分)を対応させる写像 pr$ _1\strut($pr$ _2)\strut$

pr$\displaystyle _1:A\times B \longrightarrow A\quad (a,b)\longmapsto a\strut$

pr$\displaystyle _2:A\times B \longrightarrow B\quad (a,b)\longmapsto b\strut$

射影 (projection)という.射影は全射であることを示せ.

命題 2.35   任意の集合$ A$に対し,$ A$から$ A$のべき集合 $ {\cal P}(A)\strut$の上への写像は存在しない.

証明: そのような写像 $ f:A\xrightarrow{onto} {\cal P}(A)\strut$が存在したとする.このとき,各$ a\in A$ に対し, $ A_a:=f(a)\strut$とおき,さらに $ X:=\{a \in A \bigm \vert a \notin\strut A_a\}\strut$とする. $ X\subseteq A$であるから $ X\in {\cal P}(A)\strut$である.従って$ f\strut$ $ {\cal P}(A)\strut$の上への 写像であることより, $ X=f(b)=A_b\strut$となる $ b\in A\strut$が存在するが,このとき, $ \forall x \in A [x\in X  \Leftrightarrow x \in A_b]\strut$であるから,特に$ x$として$ b$をとると,

$\displaystyle b\in X  \Leftrightarrow b \in A_b\strut$

である.一方,$ X$の定義より, $ b\in X  \Leftrightarrow b\notin\strut A_b$ となり, $ b\in A_b\strut$であることと $ b\notin\strut A_b\strut$が同値となり矛盾する.よって,$ A$から $ {\cal P}(A)\strut$への上への写像は存在しない. $ \Box$

2.3.2 単射

$ f:A\longrightarrow B\strut$において,一般に $ f(x_1)=f(x_2)\strut$であるからといって $ x_1=x_2\strut$とは限らない. 例えば,上の例題2.32では $ f(0)=f(3/2)=0\strut$である. $ f(x_1)=f(x_2)\strut$ならば常に $ x_1=x_2\strut$となるとき, $ f\strut$$ A$から$ B$への1対1(one to one)の写像, あるいは$ A$から$ B$への単射(injection)とよび, $ f:A\xrightarrow{1-1} B\strut$あるいは $ f:A\rightarrowtail B\strut$で表す. $ f:A\xrightarrow{1-1} B\strut$のとき定義より

$\displaystyle \forall a,b\in A [a\ne b  \rightarrow f(a)\ne f(b)]\strut$

である.

例題 2.36   $ f(x)=x^3\strut$ $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への単射であることを示せ.

$ a^3=b^3\strut$とする. $ a^3-b^3=(a-b)(a^2+ab+b^2)=0\strut$より $ a=b$である.よって, $ f(x)=x^3\strut$は単射である. $ \Box$

問題 2.37   $ f(x)=\log x\strut$ $ \{x\in \mathbb{R}\bigm \vert x>0\}\strut$から $ \mathbb{R}$ への単射であることを示せ.

例題 2.38   $ f:A\longrightarrow B\strut$ $ g:B\longrightarrow C\strut$とする.このとき, $ f,g\strut$がともに単射ならば, $ g\circ f\strut$も単射であることを示せ.

証明 $ g\circ f(a)=g\circ f(b)\strut$とする. $ g(f(a))=g(f(b))\strut$$ g\strut$が単射であるから, $ f(a)=f(b)\strut$であり,さらに$ f\strut$も単射であるから $ a=b$を得る.よって,$ f,g\strut$がともに単射ならば, $ g\circ f\strut$も単射である. $ \Box$

問題 2.39   $ f:A\longrightarrow B\strut$ $ g:B\longrightarrow C\strut$とする.このとき, $ g\circ f\strut$が単射ならば$ f\strut$が単射であることを示せ.また,この逆は一般には成り立たない,反例を考えよ.

命題 2.40  

$ A\subseteq\mathbb{R}\strut$, $ f:A\longrightarrow \mathbb{R}\strut$とする.$ f\strut$が単射であるための必要十分条件は, $ x$軸に平行な任意の直線が $ y=f(x)\strut$のグラフと高々1つの交点を持つことである.

証明: 任意の $ b \in \mathbb{R}\strut$ に対し,直線$ y=b\strut$ $ y=f(x)\strut$が高々1つ交点を持つ

$  \Leftrightarrow \forall b \in \mathbb{R}\forall a_1,a_2\in A [(a_1,b)\strut$ $ (a_2,b)\strut$がともに $ y=b\strut$ $ y=f(x)\strut$ の交点であるならば $ a_1=a_2\strut$である $ ]\strut$

$  \Leftrightarrow \forall b \in \mathbb{R}\forall a_1,a_2\in A [ b=f(a_1) \wedge b=f(a_2) \rightarrow a_1=a_2]\strut$

$  \Leftrightarrow \forall a_1,a_2\in A [ f(a_1)=f(a_2) \rightarrow a_1=a_2]\strut$

従って,$ f\strut$が単射であることと$ x$軸に平行な任意の直線が $ y=f(x)\strut$のグラフと高々1つの交点を持つことは同値である. $ \Box$

問題 2.41   $ f_1,f_2,f_3,f_4,f_5\strut$をそれぞれ次の式により定義された $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への写像とする. これらの写像のなかで単射であるのはどれか.

$\displaystyle f_1(x)=x+1,f_2(x)=x^2-2,f_3(x)=x^3+3,f_4(x)=x^3-x^2,f_5(x)=e^x\strut$

2.3.3 全単射

全射かつ単射である写像を,全単射(bijection)あるいは1対1かつ上への写像(one to one onto)とよび, $ f:A\xrightarrow[onto]{1-1} B\strut$で表す. $ f:A\longrightarrow B\strut$が全単射のとき, $ f\strut$$ A$$ B$の間の1対1対応とよぶこともある.$ A$から$ A$への写像で$ A$の各元にそれ自身を対応させる写像を $ A$上の恒等写像とよび$ I_A\strut$で表す.恒等写像は全単射である.

定理 2.42   $ f:A\longrightarrow B\strut$が全単射であるための必要十分条件は任意の $ b\in B\strut$に対し $ b=f(a)\strut$をみたす$ a\in A$がただ一つ存在することであることを示せ.

証明 $ f:A\longrightarrow B\strut$が全単射であるとする.$ f\strut$は全射であるから, 任意の $ b\in B\strut$に対し $ b=f(a)\strut$となる$ a\in A$が存在する. $ b\in B\strut$に対し, $ b=f(a)=f(a')\strut$とすると, $ f(a)=f(a')\strut$$ f\strut$は単射であるから $ a=a'\strut$となる. よって,任意の $ b\in B\strut$に対し $ b=f(a)\strut$をみたす$ a\in A$がただ一つ存在する. 逆に,任意の $ b\in B\strut$に対し $ b=f(a)\strut$をみたす$ a\in A$がただ一つ存在するとする. このとき,$ f\strut$が全射であることは明らかである.$ f\strut$が単射であることを示す. $ f(a)=f(a')\strut$とする. $ b=f(a)=f(a')\strut$とおくと,仮定より $ b=f(a)\strut$となる$ a\in A$ はただ一つであるから $ a=a'\strut$である.よって,$ f\strut$は単射である. $ \Box$

問題 2.43   $ f_1,f_2,f_3,f_4,f_5\strut$をそれぞれ次の式により定義された $ \mathbb{R}$ から $ \mathbb{R}$ への写像とする. これらの写像のなかで全単射であるのはどれか.

$\displaystyle f_1(x)=x+1,f_2(x)=x^2-2,f_3(x)=x^3+3,f_4(x)=x^3-x^2,f_5(x)=e^x\strut$

例題 2.44   $ A:=\left(\begin{array}{cc}
a&b\\
c&d
\end{array}\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$とする.$ T_A\strut$を例 2.1の線形写像とする.このとき, $ T_A\strut$が全単射であるための必要十分条件は$ A$が正則である,すなわち $ \det A \neq 0\strut$で あることを示せ.

$ \det A\ne 0\strut$とする.このとき,$ A$は逆行列をもつから任意の $ \left( \!\!\begin{array}{c} u  v \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$に対し $ T_A\left( \!\!\begin{array}{c} x  y \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}...
...left( \!\!\begin{array}{c} u  v \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$をみたす $ \left( \!\!\begin{array}{c} x  y \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$ $ A^{-1}\left( \!\!\begin{array}{c} u  v \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$ のみである.よって,定理2.42より$ T_A\strut$は全単射である.逆に$ T_A\strut$が全単射かつ $ ad-bc=0\strut$とする.このとき, $ T_A\left( \!\!\begin{array}{c} d  0 \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}...
...ft( \!\!\begin{array}{c} bc  cd \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$$ T_A\strut$は単射であるから, $ \left( \!\!\begin{array}{c} d  0 \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8p...
...left( \!\!\begin{array}{c} 0  c \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$ となり,$ c=d=0$となる.しかし,このとき任意の$ x,y\strut$に対し, $ T_A\left( \!\!\begin{array}{c} x  y \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}...
...( \!\!\begin{array}{c} ax+by  0 \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt}$ となり, $ \left( \!\!\begin{array}{c} u  v \end{array} \!\!\right)\rule[-20pt]{0pt}{8pt} (v\ne 0)$の形のベクトルは$ T_A\strut$の像には属さない.これは$ T_A\strut$が 全射であることに反する. $ \Box$

問題 2.45   $ A$の元の数が$ m$個,$ B$の元の個数が$ n$個とする.
  1. $ m\leqq n$のとき,$ A$から$ B$への単射の個数は全部でいくつか.
  2. $ m=n$のとき,$ A$から$ B$への全単射の個数は全部でいくつか.

TAKAHASHI Makoto : http://herb.h.kobe-u.ac.jp/